最澄〈1〉



最澄〈1〉
最澄〈1〉

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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天台宗も最初は改革者の宗教だった。

 私は20数年前から織田信長のファンで、信長が焼き討ちにした有名な延暦寺を作った最澄については、余り良く思っていなかった。しかし、安岡正篤師の著書から「一灯照隅万灯照国」の言葉が最澄のものと知り、最澄に興味をもち読み始めた。

 読み始めるとまさにそれは刮目(目を大きく見開く)の思いであった。それまでの国家や支配者層のための仏教に対し、広く国民のための仏教を起こそうとして活動を始めた最澄の生き方に深い感銘を受けた。。その手法も政治手腕を駆使するのではなく、山にこもることからはじめ、支持者が出てきて、知らず知らずのうちに目的がかなうというもので、手法としても興味深い。歴史の教科書から得た知識では、空海は政界から距離を置くために高野山に金剛峰寺を創建し、最澄は政界と深い関係があったために京都に近い比叡山に延暦寺を創建したとあるが、その実体ははむしろ逆であるとこの本では書かれている。

 最澄亡き後の延暦寺は平安時代の中期以降、僧兵などの活躍に見られるよう、政界との関係を深め、信長の時代に至っては大変堕落したと思うが、自分亡き後も1000年も続く教え、その教えを維持し広めるための組織を作るというのは大変なことだ。最澄も空海も数百年に一人の傑出した宗教人であることは間違い無い。

 天台宗は今でこそ既存宗教の典型だが、その設立当初は既存仏教に対するアンチテーゼ改革者として作られたものであることに興味を覚えた。何事も現状にたいして改革を提唱し、それを実現することは大変困難な業である。それを実現して現在に続く天台宗の基礎を作り上げた最澄というものはやはり大した存在である。
大長編教養小説

この第一巻を含めて三巻すべて合わせると1600ページにも及ぶ大冊です。が、小説として大変面白く、寝食を忘れる勢いで読み通しました。感覚的には、小・中学生の時、下村湖人の「次郎物語」と出会った時の気分でした。どきどきわくわくしながら次郎と成長を共にした時のことを思い出しました。「あとがき」で「精神の生長とドラマを中心に据え」た「宗教的長編小説」を「具体化するために」骨を折られたことについて作者は述べているので、「最澄」を「次郎物語」のように「教養小説」として読んだということは著者の意図を正しく汲み取ることができたということかもしれません。

またこの本は、日本の文化・宗教の源流を辿るという意味でもたいへん興味深い本です。最澄について記されたこの本は同時に空海についての本でもあります。仏教以前の土俗的な日本の宗教事情も示唆されています。どうぞお楽しみください。



新潮社




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